※記載されているプロフィールは取材時のものです。

先生が答える WK相談室

お子さまの「音まね」から「文法」へ発展 (豊田先生)

娘は、ワールドワイドキッズのDVDのセリフをそのまま憶えているので、絵を描いているときも"I'm drawing, Mani."と最後の"Mani"まで付け加えます。また、Naef Spielで遊んでいるときも、DVDの中でお父さんとKenくんが遊んでいるように全く同じ動作とセリフを言うので、「理解はしているものの、ただのコピーになっているのでは?」と心配になってきました。


豊田先生豊田ひろ子先生

東京工科大学教授。専門は言語教育学、児童英語教育、バイリンガリズム。1児(男の子)の子育て真っ最中!ご主人は日本人とアメリカ人のダブル

お子さんが全体をまねて言うことは自然な現象です

監修の豊田先生


子どもは、言葉をたくさん聞いて、まねることから学びます。幼い子どもほど、文を聞くとき、その意味や文法を構造的に探らず、その音やリズム全体を体感してまるごと覚えます。
ですから、DVDや絵本で見て印象に残ったもの、例えば、"I'm drawing, Mani."という文を、最後まで通して全体をまねて言えてしまうというのはごく自然な現象です。

しかも、子どもは、たいていまねが好きで、気に入ったものは何度でも繰り返します。日本語でも、人気のある流行語、例えば「しゅうちしん」など、意味をきちんと知らなくても、何度でも繰り返します。傍で、同じ言葉を何度も聞かされる保護者の方々は、それしか言えなくなるのではないかしらと心配されてしまうことがあるかもしれません。

基本形を音でまるごと言えるようになるのは、言語習得の第一歩です

しかし、子どもはやがて、言葉の構造や意味により関心を持つようになります。例えば、"I'm drawing, Mani."という文で、"Mani"ではなく"Mom"というように相手が代われば、"I'm drawing, Mom."となったり、"drawing"ではなく"reading"であれば、"I'm reading, Mani."のように、文章の構造の一部を言い換えて、違う意味の文を作り出せることに気がつきます。
なので、おうちのかたには、"Mani"の部分や"drawing"の部分を入れ替えながら、さまざまなバリエーションを聞かせてあげていただければと思います。

実際、人間が創造的に無限大の文を創造できるのは、このように言葉が構成要素の入れ替えを許しているためなのですが、その面白さに気づき、これを使いたいと思うようになるのです。そのためにも、まず基本形を音でまるごと言えるようになっていることは良いことです。

やがて、基本形を思うように応用することができるようになると、自分は自分が言いたいことを言えているという達成感を味わえるようになるからです。

「音まね」から「構造や意味への気づき」の時期へ

おうちのかたには、「音まね」の時期の学習、そして「音まね」から「構造や意味への気づき」の時期の学習のように異なる段階におけるお子様の学習のプロセスを見守りながら、構成要素の入れ替えをさりげなくお子さんに伝えてあげていただければと思います。

たとえば、"Come with me."(一緒に来てね)という表現は、日常生活でも使いやすい表現で、行動が伴いますので、お子さまも音まねしやすい表現です。

そこで、この表現を基本として、さまざまなバリエーションに応用することができます。"Come"の部分を入れ替えて、"Sing with me."(一緒に歌おう)、"Eat with me."(一緒に食べよう)、"Drink with me."(一緒に飲もう)、"Play with me."(一緒に遊ぼう)、"Run with me."(一緒に走ろう)など、さまざまなバリエーションにふれていくことで、やがてお子さま本人が文章の構造に気づけるようになるのです。

語学に限らず、学びには「本人の気づき」が何より大切です。

音まねで、その表現がそのシチュエーションに正確にあっていなかったとしても、それは、お子さまが思考し、自分の仮説か正しい試行を繰り返しているという能動的な学習の表れなので、単純に訂正するのではなく温かく見守ってあげください。そして一緒に文章の構造の変化・入れ替えの面白さを味わっていただければと思います。